【物語】僕とあなたの、思い出の花。(1)

「僕とあなたの、思い出の花」の第1話。
中国人の僕と、日本人のあなたと紡ぐ日々。

この記事を書いたのは?

楓橋徹

出身地:中国

私は中国の海浜都市から来て、現在東京の高校に通っています。この世界は広いので、何方でも行ってみたいです。ソローが書くワルデン湖、シェイクスピアの詩のロンドン、そして松尾芭蕉の徘句のような美しい夏に日本に来ました。暇な時、空想することが好きで、時々、自分が平和な時代に生まれて嬉しくなります。その反面、これから起こりうる戦争が心配です。また、昔の戦争のせいで、その国に住む人同士の中に誤解が生まれてしまうことがあります。しかし、私は子供の時に、違う国の人と触れ合うことがありました。生まれた国は違っても、その人の優しさに感動しました。
現在多くの日本人の友達がいます。中国人として、日中の友好交流が一歩近づいて心から願っています。今回は小説の中で、歴史の残した問題を違う視点から認識することができるといいなと思っています。私たちは生まれた国に関係なく、お互いに歩み寄っていきたいです

M

出身地:非公開

紹介文:私は作者のお友達です。今回初めて校閲をさせて頂きました。難しかったのですが、素敵な物語だったので書いている最中はすごく面白かったです。

僕とあなたの、思い出の花。

2012年の夏、私は小学4年生になった。
それまで過ごしていた夏のこと、住んでいた街のこと、面白い出来事、私にはどれも思い出せなかった。
日記を書くという宿題は、私にとって拷問のようだ。
「少しずつ書けばいいのよ」とママは言う。

それを聞く度に私は泣くに泣けない気持ちになる。
「はいはい、わかってる」と私は言う。

でも、3日分書いたら、何も書けなくなってしまった。
これまでの夏を過ごしたことも、これからの夏を過ごすこともないような気がしてる。
五感のない人間が季節の移り変わりをいくら感じようとしても無駄だ。

どんなに頑張っても、残るのは痺れだけ。私はそういう人間なんだ。

いつでもエアコンのついた部屋、教室、塾で生活している。

みんなが言う、色とりどりの世界は、ほとんど意味がなく、空虚で惨めなものと言っていいだろう。
海岸の小さな街、古い街並み、薄暗い街灯、壊れた壁、時々電線に止まるツバメ、斜め向かいの家に絡まるツタ。

そして私の狭い部屋。私の目に色彩を帯びて見えるのはこれだけ。
ママは「子供にとって1番大切なのは勉強よ、しっかり勉強をすれば全て上手くいくんだから。」といつも説教した。
パパは「お前が直面する社会は、我々の時代とは違う。

将来仕事をする時に、学歴がなければいい仕事に就けるはずがない。道の清掃や皿洗いの仕事になってしまうぞ」といつも言った。
そんなことはない。

でもまだ10歳だった私には、分からないことがたくさんあった。
先生は、私が音楽が好きなことを知らない。

私はたくさんのピアニストの名前をすぐ覚えられるのに、先生が知っているのは数学のテストが30点だったことだけ。

私が数学に興味あるかどうか、テストの時に何か特別な事情があったかどうかなんて考えないだろうし、単に私の学習態度を疑うだけだろう。
世の中そんなもんだ。

理解出来ていなくても、好きでやっていても、それはいつもそこで待っている。

他のことがちゃんと出来ているか、頭がいいかどうかとは全く関係ない。
その夜、私は窓を開けた。
風はほんのり海の香りがする。

思いっ切り吸わないと、はっきりと感じられないぐらい。

でも蒸し暑い時にはベタついて、ちょっと歩くとその感覚は、濃厚なココナッツミルクを彷彿とさせる。

(続く)

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